あの時
僕が見ていたのは君ではなかった
ただ君の体にまとわりついた
風のたわむれ
輝く瞳と花の香りに酔っていただけ
永遠を脳裏に焼き付けようと
握りしめた君の手を僕は感じていなかった
交わる汗と温もりの中で
ただひたすら自分を無くしていただけ
両の手のひらに刻まれた君の苦悩
まだ生々しい傷口さえ
君のやさしい面影にかすんで見えなかった
季節は流れ
今僕は風のたわむれの中に君を見ている
木の葉の揺らぎに君の心を感じ
轟音に取り残された飛行機雲に
君の未来を追いかけている
あの時
君だけを見ようとまばたきもせず
見つめる瞳に映っていたのは
君ではなかった
君以外の全てのものがそこにはあって
ただ君だけが消えていた
全ての中に君が生きてる事を知らない僕が
絶望するには充分すぎる光景だった
季節は流れ
今僕は一枚のハンカチに君を感じている
ほのかな香りに君はいつでもたちのぼり
空間と時間の全ての垣根を飛び越えて
君は微笑む
いつかまた季節が巡り来て
君と出会ったなら
木の葉に映る君を教えてあげる
風と共に舞う君を見せてあげる
君でさえ知らない君を
きっと見せてあげる