柔軟な感性と偏りのない知性のために |
思考の偏りは最大のネック 創造的な仕事はどの分野も計り知れない奥行きがあります。ゆえにその道を目指すには一途な思い入れと不断の探究心が不可欠ですが、それでも思考の偏りは創造にとって最大の敵だと思われます。 何故なら最も大切な感性と想像力が磨かれるのは人や自然に対する垣根のない自由な心と多角的な視点によるところが多いからです。 発想の原点
ベートーヴェンに深遠な森の声を聞く感性がなければあの壮大な交響曲は生まれなかったでしょうし、シャーロックホームズの聡明な推理もヴァイオリンがなければ生まれなかったでしょう。それは「専門的技術や能力以外の人間的な要素」です。 ホームズを描いた作者のドイル自身の考え方がそこにあります。音楽、絵画、文学、科学、どれも創造や創作、独自の発想や感覚が必要なジャンルです。
偏りのない、ある種苦悩と愛がなければなにも生まれないのは歴史が証明しています。工業デザインの製品フォルム一つ考えるにしても、自然科学や音楽的な感覚が有効ですし、 グラフィックにしてもインテリアにしても日常的な無数の体験を偏りのない心でとらえる事が発想の原点となります。 技術は知識と訓練の積み重ねと言う時間的要素で体得できる可能性がありますが、感性はそう言う性質のものではなく、ある時期、あるタイミングに身につけなければ知識や修練で補えるものではない事は事実だと思えます。
好奇心と行動
子供の頃の旺盛な好奇心と行動力。それは多くの人に備わった本能的な衝動です。たしかにそれぞれ固有の特性があって興味を示すもの示さないもの、好きなもの嫌うものの差はあるでしょうが、 それは大人の指導によってかなりの部分の偏りを是正出来ます。逆に言えば大人の指導によっては偏見や偏狭さも植え付けられます。 それでも学校での環境、教師があり、友人があり、新しく出会う書籍や、映画があり、音楽があり、スポーツがありそれらに関わる事で、初期の家庭環境の影響は当然変化するはずです。
専門分化の弊害
にもかかわらず近年の青少年のある種の平均化、独自性のなさはそもそも戦後の均一教育、経済優先のために各分野における専門分化教育が過ぎた結果偏った大人が多くなってしまったためです。 彼らは自由で想像力のある子供たちや若者を指導するにはあまりに思考が偏っています。 一つの物事に特化された人間は確かに形の決まった生産分野においてはとても有能で、それはまさに企業や役所が望む人材だとは思いますが、自由や平和を考える人材、新しい発想や創造を担う人材の育成には不向きです。 いつの時代も国民を啓蒙しなければならない芸術家、学者、教育者、政治家などまでが専門分化されてしまっては、のびやかな若者が育つ道理がありません。
豊かな未来へ
バースの寺子屋に書いた幾つかのものの見方考え方はごくたわいないものではありますが、本当に簡単な基本的とも言える感覚の持ち方、視点の置き方すら今の教育の現場ではないがしろにされているのではないでしょうか。 美しい自然に接して感動する心。いい本やいい映画に人生の伴侶を見いだし、こんな人間になろうとか目指そうとか、こんな冒険をしよう、こんなものを作ろう、これだけは守ろうとか・・・ 人間1人1人の可能性は無限です。もともとある無限の可能性を台無しにしてしまうのが、偏見や偏狭な心です。全ての物事はつながっています。絵も音楽も文学も科学もその中に共通して流れるのは自然への驚きであり、感謝であり、発見であり、感動する心です。 そう言う心持ちの上に知識や技術が積み重なってこそ音は響き、絵は輝き、小説や詩が胸をうち、科学は平和でゆたかな未来へ人類を導くのだと僕は思います。
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