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<その人の指向性、価値観、生き方、考え方>


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『美味しんぼ』バッシング騒動について「どうしてこんな事が大騒ぎの原因になるのか、それこそが私にとっては不思議でした」〜第80回小出裕章ジャーナル(2014/07/18ラジオフォーラム)聞き手:今西憲之


今西憲之:
今年の5月に連載されておりました漫画『美味しんぼ』の問題、大きな騒動になりました。『美味しんぼ第604話 福島の真実その22』で登場する山岡さんという記者の方が、 福島第一原発の内部で取材をしたと。その後、疲労感を覚えたり、原因不明な鼻血を出したという体調の異変を訴えたシーンが描かれました。これについて、非常に大きな論議を呼びました。小出さんもあちこちからコメントを求められ、いろいろお答えになられたというのを私も記憶しているんですけれども。実際にこのシーン、漫画で読まれて率直な感想はいかがでしたでしょうか?

小出さん:
そのシーンというよりですね、「この美味しんぼという漫画がとても素晴らしい漫画なんだな」と、まずはそう思いました。今回のテーマも福島の原発の事故を取り上げて下さって、その中で苦難のどん底に落とされた被害者の方達がたくさんいるわけですけれども、その方々に寄り添おうとする姿勢がはっきりと出ていて、私としては大変ありがたかったし、こういう漫画が今存在してくれているということをありがたく思いました。その上で鼻血のシーンですけれども、要するに事実として描いたというだけのことであって、何ら問題のないはずだし、どうしてこんな事が大騒ぎの原因になるのか、それこそが私にとっては不思議でした。


今西:
そして、前福島県二葉町長の井戸川さん、ラジオフォーラムにもゲストに以前出ていただききましたが(→第49回)、「福島では同じような症状を訴える人がたくさんいらっしゃいます」ということで、鼻血について述べられた。こういう事実、井戸川さん自身も鼻血が出ている。

小出さん:
そうです。彼自身もたくさん何度も鼻血を出しているわけですし、ちゃんとその事実というか写真でも示してくれていますし、もちろんたくさんの人が鼻血を出しているわけで、私自身もたくさんの人から鼻血が出たという話を聞いています。

今西:
なるほど。にも関わらず、おまけにこれは漫画ですよね?

小出さん:
はい。 でも、漫画だから許されるということはないでしょうから、もちろんちゃんと議論はしていいと思いますけれども、でも、鼻血が出た、あるいはそれを漫画が取り上げたからといって一体何なんだと私はまずは思いました。

今西:
なるほど。それで、石原環境大臣筆頭にいろいろな政府の要職の方が「放射能と鼻血の因果関係は一切ない」と述べるなど、猛烈なバッシングが展開された訳ですよね。どうしてここまでバッシングをしなければならないのか。やはり、この背後には、原発を再稼働したいという原子力ムラの影が見え隠れするのかなと思ったりしたのですが、小出さんいかがでしょうか?

小出さん:
もちろんそうだと思います。しかし、石原さんにしても官房長官の菅さんにしても、いわゆる自民党の要職にあるわけです。そして、福島の事故を起こした責任って一体誰にあったのかと言えば、福島の原子力発電所が安全だとしてお墨付きを与えた自民党にこそ、私はあったと思います。それなのに彼らは何の処罰も受けない。そして、謝罪もしないまま、単に鼻血が出たという事実を描いただけの漫画を攻撃するということになっているわけです。まことに異様なことだし、多くのマスコミが何かその鼻血が出たと報道した漫画自身がおかしいというようなことに加担したわけで、随分おかしな世界だなと私は思います。

今西:
なるほど。そうですよね。事実、自民党の国会議員の方も国会の場で鼻血について質問をされておられる方までいらっしゃった。

小出さん:
そうです。事実出ているわけですから、そんなことは出たということはただ事実であって、それが一体どういう原因で出たということを科学的に突き止める責任は、まずはその事故を引き起こした自民党にこそあるはずなのですけれども、ただひたすら鼻血と被ばくの因果関係を否定するという、そういう行動に出てきたわけですね。私は全くおかしいと思いますが、彼らとしては日本中の原子力発電所を再稼働させたいわけですし、一刻も早く福島を忘れさせてしまいたいわけですから、何としてもこういう被害を否定したいと思ったのだと思います。

今西:
なるほど。それで実際、科学的根拠があるという意見もあればないという意見、いろいろ紹介されました。やはり大事なのは、まず正確な情報を得るということが一番必要ではないかなあと思うのですが。

小出さん:
そうです。これまで蓄積されてきた被ばくと被害の因果関係を証明するデータというのは、主要な部分は広島・長崎、原爆被爆者にあったのです。その被ばくの仕方というのは、瞬間的に大量な被ばくを外部から受けたという、そういう被ばくの形式に対しての被害が、データとしてだんだん蓄積されてきたというわけですけれども、今回の場合には、おそらくそうではなくて、外部から全体的に被ばくを受けたというのではなくて、鼻なら鼻の部分だけ局所的に被ばくをしたという、かなり特殊な被ばくの仕方というのがあり得たと私は思いますし、そういう事をキチッと検証しなければいけないはずなのですが、いわゆる科学の常識に従って、これまでのデータだけで判断してしまうという、誤りを多くの方が犯したと思います。

今西:
なるほど。過去の例にない被ばくの仕方をされたのではないかということですね。

小出さん:
はい、福島の事故なんていうのは、人類が初めて遭遇している事故なわけであって、過去の経験では分からないような被ばくの仕方というのは、あるはずだと私は思いますし、科学というのは一歩一歩、事実と経験を蓄積していかないといけないものなわけですから今、進行してる福島の事故、そしてその汚染からの被ばくということにもっともっと謙虚に向き合うべきだと思います。

今西:
ありとあらゆる可能性を想定しながら徹底的に調べることが大事ではないかということですね。

小出さん:
そうです。それが科学的な態度だと思います。

今西:
なるほど。なるほど。けども、その科学的な態度がなかなか実際問題、実践されてないというのか。

小出さん:
まあ、政治家の方々に科学的な態度を求めるというのも、おかしな話ではありますけれども、でも、政治家の人というのは、やはり人々を守るというのが一番の大切な役割だと思いますし、頭から、もう被ばくと被害の因果関係がないというような発言をするというのは、まことに政治家としてもおかしいと思います。

今西:
そうですね、はい。それでですね、私この『美味しんぼ』のバッシング騒動を見ておってですね、やはり、ひとつマスコミでも欠けておったところがあるかなあと思うんですね。実際に、その記者として描かれていた山岡さんという方ですね、この方が実在するのかどうかっていうのを確認したマスコミはないと思うんですよね。

小出さん:
なるほど、はい。

今西:
漫画で一応、架空の人物とされておるのですけれども、ひょっとすれば作者の刈谷さん、取材をされておられてそういう方がいらっしゃった。ただ、何らかの事情で実名を出しておられないとう可能性もある訳ですよね。

小出さん:
はい、私は少なくとも『美味しんぼ』という漫画を見た限りでは、極めて緻密な取材をしたんだなと感じましたので、きっともちろん、山岡さんという名前ではないと思いますけれども、実在の方がいらっしゃると思います。

今西:
そうですね。いや、そこが私もマスコミの仕事に関わりながら非常に大きな反省点かなあと、問題点かなあと思ったりするのですけれども。『美味しんぼ』、今、一時休載という形になっておるのですけれども、どうでしょう小出さん、ぜひ続けてほしいなあと私は思ってるんですが。

小出さん:
はい、もちろん私も思います。こういう優れた漫画が今この時にあってくれたことを有難く思いましたし、これからもどんどん活躍してほしいと願います。

今西:
そうですね。ぜひ、今後も福島のことを描いて頂きたいなあと思います。はい、小出さん今日はありがとうございました。

小出さん:
はい、ありがとうございました。

http://www.rafjp.org/koidejournal/no80/

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早くも行き詰まった凍土壁問題 「これまでやってきた技術の枠組みをはるかに超えているわけです」〜第79回小出裕章ジャーナル(ラジオ放送日 2014年7月11日〜18日)(Web公開 7月12日)聞き手:石丸次郎

石丸次郎:
さて、今日は凍土壁の問題について考えてみたいと思うんですが、小出さんは、この凍土壁についてはあちこちでずっと意見を述べてこられました。福島第一原発の汚染水を止める為に、1号機から4号機までの4つの建屋を囲むように1.5キロに渡って凍土壁を作ろう、1550本の配管を地下30メートルにまで打ち込んで、そこを冷却材で循環させて氷の壁を作って、この汚染水を食い止めようと、そういう計画でありました。

建設費がなんと国から研究開発、つまり税金ですね。320億円が国の負担で出されるということになっておりましたが、早速ちょっと問題が起こってるようですね。まず、凍らないという。こういう問題が起こっておりますが、この辺についてまずちょっとご解説頂けますでしょうか。

小出さん:
はい。凍土壁という、この技術ですけれども、もともとはトンネル工事とかで地下水が出てきた時に、ある部分的な場所を凍らせて工事を先に進めるというために使われてきた技術です。しかし、今、石丸さんがきちっとおっしゃって下さいましたけれども、今回の場合には1.5キロというようなものすごい長さに渡って、そして深さも30メートルという所まで全部を凍らせなければいけないという、そういう事になっているわけです。

これまでやってきた技術の枠組みをはるかに超えているわけですし、たぶん様々な問題が出てくるだろうし、場合によっては出来ないだろうし。仮に出来たとしても、長期間持たせることは出来ないと私は思ってきましたし、そう発言もしてきました。まさにその通りのことが今起きているということだと思います。

石丸:
なるほど。この凍土壁というアイディアですね。これ自体は当初出てきた時はどう思われましたか?

小出さん:
私自身は2011年5月、つまり事故が起きて2カ月後に地下に遮水壁と私は呼びましたけれども、地下水との接触を断つような壁を作らなければいけないと発言をしたのです。どうしても必要だと私は思ったので、その時に発言をしたのですけれども。でも、その私がイメージしたのは、鉄とコンクリートで壁を作るという、そういうイメージでした。ただ、それを作ろうとすると1000億円のお金がかかってしまう。そして、6月に東京電力の株主総会があったわけですが。

石丸:
株主総会直前だったわけですね。

小出さん:
そうです。その株主総会を乗り越えることができないということで、結局は実現しなかったというものなのです。以来、3年ぐらい経ってですね、ようやくに凍土壁という物を造るというようなことになって、6月の初めから工事が始まっている訳ですけれども。私はもうあまりにも遅すぎたと思います。そして、本当であれば、先程も聞いて頂いたように、凍土壁はできないかもしれないし、できても長持ちはしないので、やはり、しっかりとしたコンクリートの壁を作る以外にないだろうと思います。ただし、コンクリートの壁を作ろうとすると、かなり長期間の時間がかかってしまいますので、凍土壁であれば簡単にできるというのであれば、やってみる価値はあると私は思っていました。ただし、やはり難しいだろうなと危惧をしていたのですが、そうなってしまいました。

石丸:
今現状で、これは黄信号が灯り、そして、規制委員会の方でも「これ大丈夫なのか」と、「ダメなんじゃないか」という意見が出ているようですけれども、今後の展開というのはどういう風なことが予測されますでしょうか?

小出さん:
はい。福島の事故というのは、人類が初めて遭遇している事故なのであって、たくさんのアイディアを集めながら一歩一歩やってみるしかないだろうと私は思います。  そのためには私自身もいくつもの提案をしてきまして、これまでは溶け落ちてしまった炉心をこれ以上溶かすことは、はやりダメだということで、ひたすら水を入れてきたわけです。それが汚染水となってどんどん溢れてくるということは当たり前のことですし、3年間それを続けてきて、今どうにもならないところまで追い込まれているわけです。

石丸:
どうにもならない。

小出さん:
はい。私は、まずはもう水を入れるということを止めるべきだという発言をもう既に1年近く前から発言をしていますし、水での冷却ではなくて、別の冷却方法に早急に切り替えるべきだと思います。そして、今回の凍土壁の問題とも絡んでいるのですけれども、原子炉建屋の地下、タービン建屋の地下、そしてトレンチという地下のトンネルに溜まっている水をまずは早急に抜き出すべきだと私は思いますので、それも大変難しい作業なのですが、そちらも並行してやるということが必要だと思います。

更にですけれども、今、汚染水、地下水として流れてきている水が汚染水と混ざり合っているのですけれども、その地下水として流れてくる水のたぶん大部分は、敷地に降っている雨だと思いますので、その雨を遮断する。つまり、その敷地全体を舗装するとかですね。場合によっては、私は敷地全体に屋根を造るということでもいいと思いますけれども、雨の流入を防ぐということはかなり効果があると思いますし、様々な方策を組み合わせながら、この問題を乗り越えるしかないだろうと思います。

石丸:
はい。この凍土壁の工事にせよ、あるいは鉄とコンクリートで根本的なもっと頑丈な遮断壁を造るにせよ、これは、でも現場での作業が必要になりますから、作業員の被ばくが本当に心配ですよね。

小出さん:
そうなんです。石丸さんが今おっしゃってくれた通りであって、福島第一原子力発電所の敷地の中は、もう放射能の沼のような状態になっているわけで。

石丸:
放射能の沼ですか?

小出さん:
はい。という訳で、どんな作業をしても被ばくをしなければいけないということになっている訳です。ですから、「ちゃんとした作業をしろ」「ちゃんと対策を取れ」と要求すればするだけ、労働者の被ばくが増えてしまうことになりますし、その労働者というのは、東京電力の社員ではなくて、下請け、孫請け、そのまた下請け、孫請けというような、本当に社会的な底辺で苦しんでいる労働者達がまた被ばくをさせられてしまうということになるわけです。私としては大変苦しい状態にあります。

石丸:
はい。本当にもどかしい。誰かが犠牲にならないと、この汚染水の問題も前進させられないという、そういう状況にあるということですね。

小出さん:
そうです。

石丸:
小出さん、どうも今日はありがとうございました。

小出さん:
はい。ありがとうございました。
http://www.rafjp.org/koidejournal/no79/

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