<米谷ふみ子> |
米谷 ふみ子(こめたに ふみこ、1930年11月15日 - )は日本出身の作家・画家。ロサンゼルス近郊パシフィック・パリセイズに在住。 アメリカと日本で反核を訴え続ける作家・米谷ふみ子さん(2011/08/04 Discover Nikkei By Keiko Fukuda ) アメリカ人は核について知らされていない 広島や長崎を題材にした反核イベントを開催することになった直接のきっかけについて、米谷さんに聞いた。「数年前にサンディエゴ州立大学でアジア学会が開催された時のこと、インド人の教授が核の話をするというので興味を持って聞きに行ったのです。 そうしたら核の怖さの話ではなくて、パキスタンはこれだけ核を保有しているから、インドはこれだけ持たねばならない、という話。愚の骨頂でした。そこで『あなた、広島の平和資料館に行ったことがあるのか?核が爆発したら、あなたたちの家族もやられてしまうのですよ』と面と向かって意見しました。他のアメリカ人は誰も抗議しようとしない。あの時初めて、アメリカ人は(核について)何も知らないのだということがよくわかりました」・・・ 原爆イベントに関する経緯は、米谷さんの近著「だから、言ったでしょ」に詳しい。出版後、プロモーション活動で訪れた日本は、東北大震災の1カ月後であり、人々は福島第一原発の放射能問題に直面していた。しかし、日本で会った人々には当事者意識が欠如した他力本願な印象を持ったと米谷さんは振り返る。 「書店で話をした後に、若い人が『握手してください。米谷さんの元気をください』と言って来ました。冗談ではありません。なぜ80歳の私が若い人に元気をあげないといけないのでしょう。他力本願すぎます。もっと自分で動こうとしなければ。彼らのような人は(現状を変えるのは)誰かがしてくれると思っているのです。そういう人が本当に多いことに呆れました」・・・ 米谷ふみ子 エッセー集 米国流わがままのススメ(2013/06/19朝日新聞) 「日本国憲法は米国が作ったと批判する人がいるが、ヨソからもらったモノでも美しいものは美しい。それを捨てて、今の米国のまねをする気? 平和が最も世の中を栄えさせることは、今の日本をみればわかるのに」。 米国では貧困層が軍隊に入ることが少なくない。そして、身体的にも精神的にもダメージを負った傷病兵への補償費が膨大で、教育費や医療費を圧迫しているという。・・・はっきりモノを言うのが米国流だ。60年に絵の勉強のために渡米した米谷は、仲間から我慢するな、主張せよと言われた。 「日本ではわがままは悪いと片付けられる。でもそれは、上の者が下の者を御しやすくするためだと気がついた」 上下を形づくる敬語を無くした方がいいというのも持論だ。「原発事故も薬害事件も、組織の上層部の不始末が多いから、下の者がはっきりとものを言えず、問題がややこしくなるのでは」。究極のわがままは、全人類の幸せに向かっているのだ。
目覚めよ! 75歳以上の年寄り(2014/02/05朝日新聞)米谷ふみ子(作家) ・・・私は米国に五十年以上住んでいて教育費や福祉費が削られ軍事費に回されるのを見て来た。日本の指導者には平和憲法をこそ、世界に自慢してもらいたいと思っているのだが……。 ある時、ロサンゼルス市で編集者をしている四十歳くらいの日本人女性に「もし軍隊を持って戦争になれば、内地でも戦場でも人が何百万と死ぬのよ」と言うと、「戦争でそんなに多くの人間が死ぬんですか?」と聞かれ、若い世代が戦時中の恐怖を知らないことに唖然(あぜん)としたのだった。 戦争を覚えているのは七十五歳以上の人々だ。次世代の無知は、一重に、その残酷さを語り継がなかった私たち老人の責任であるとこの時気が付いたのだ。日本に住む友人から、最近、記憶力を保つためにマージャンをしている年寄りが多くいると聞いたが、あの悲惨な戦争の体験を思い出し、繰り返し若者に話す方が、よっぽど記憶力活性化の役に立つのではないか。・・・ 空襲で家や工場が焼かれ粉じんで空気汚染も甚だしく、そこらじゅうで死体を見た。大阪・梅田の地下街には、逃げ惑う時に親とはぐれた子供が屯(たむろ)していた。・・・ましてや戦場にはトイレはない。至近弾が落ちると恐怖でちびってしまう。 汚れた糞尿(ふんにょう)を体に着けたままで虫や蛇にかまれ、蛆(うじ)が湧いてもそのままだ。病気にもなる。生き残り、やっと日本からの救助ボートが来ても、乗る体力がなく波打ち際で死んだ兵隊が、ガダルカナルなど南方戦線には多くいたそうだ。 昔「平和を作るには軍隊を持つな」と哲学者カントが言った。全く正しい。どうして指導者になると、軍隊や核兵器を持ちたくなるのだろうか? 他人の持ち物を自分もほしいと思うのは自信のない証拠。放射能は、指導者であろうが罪人であろうが敵味方に平等に降り掛かることが分からない人は、指導者になるべきでない。 福島の核禍を治めずに、現政権は特定秘密保護法を通した。原発事故の実態も秘密にするのか? 戦中の「女は黙っとれ!」を思い出す。年寄りよ! 遅くはない、戦争の残酷さを赤裸々に語ろう。 ◇ 1930年大阪府生まれ。作家・画家。60年に渡米、ロサンゼルス在住。「過越しの祭」で芥川賞、「ファミリー・ビジネス」で女流文学賞。エッセー集に『ロサンゼルスの愛すべきダンス仲間』『年寄りはだまっとれ!?』など。 原発事故「だから、言ったでしょっ!」 作家・米谷ふみ子(2011/07/06朝日新聞) そんな思いを、新著の書名にした。『だから、言ったでしょっ!』・・・原爆投下から半世紀以上たち、日本社会の核への拒否反応が薄れてきたように思えてならない。毎年8月になると盛り上がる日本の反戦運動には「法事みたいに年中行事化している」と手厳しい。 副題は「核保有国で原爆イベントを続けて」。2002年、米カリフォルニア州の自宅に、近所に住む92歳の男性が投げ入れた集会のチラシに目をとめ、反戦活動に参加。一般の米国人が核兵器の脅威を何も知らないことに気づき、2年後からは、原爆の被害を伝える活動を始めた。長崎市から被爆者の写真パネルを借り、在米被爆者に講演を頼んだ。地元の高校の体育館などを借り、今も年に数度の集会を続けている。 この本が「次の世代への書き置き」という米谷は、「私が苦労してやってきたことを踏み台にして、若い人たちが自分たちの想像力を使って活動を広げて欲しい」と話している。かもがわ出版刊。(ロサンゼルス=堀内隆)
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